相続した不動産を自分では使わないときは、売却する方が多いです。
不動産を売却するときは、支払った相続税を取得費加算の特例で活用できる可能性があります。
今回は、相続税の取得費加算の特例とは何か、取得費加算の特例を適用できないケースや併用できる税制について解説します。
相続税を活用できる取得費加算の特例とは?
取得費加算の特例とは、正式名称を「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」とする税制上の特例のひとつです。
取得費加算の特例の対象となるのは、不動産の譲渡所得税になります。
取得費加算の特例の概要
不動産を売却すると、利益に対して譲渡所得税と呼ばれる所得税が課されます。
この利益とは、不動産の売却代金から取得費や譲渡費用を差し引いたあとの残り金額です。
取得費とは、不動産の取得にかかった費用を指し、通常は不動産の購入代金が該当します。
取得費加算の特例とは、この取得費に相続税を加算する制度です。
相続や遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を一定期間内に譲渡すると、相続税のうち一定金額を取得費に含められます。
取得費加算の特例を適用するための要件
取得費加算の特例の適用を受けるための要件には、誰が適用を受けられるのか、適用を受ける方が不動産などの財産をどうしたのかが含まれます。
適用を受けられるのは、相続や遺贈により該当の財産を取得した方です。
そして、その財産を取得したときに相続税が課税され、適切に納めている必要があります。
そのため、不動産などを相続していても、基礎控除の範囲内に収まるなどして相続税が課税されなかったケースは適用範囲外です。
該当の財産は、相続が開始された翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年が経過する日までに売却する必要があります。
取得費加算の特例の計算式
取得費加算の特例を適用するためには、取得費として加算できる相続税額を計算する必要があります。
取得費として加算できる相続税は、以下の計算式で求めることができます。
取得費として加算できる相続税額=個人の相続税額×譲渡した財産の課税価格÷(相続した全体の課税価格+債務控除)
相続税が取得費として加算されれば、その分利益として計上される売却代金が減ります。
これにより、実際に課税される譲渡所得税が軽減される仕組みです。
相続税の取得費加算の特例を適用できないケース
取得費加算の特例は、相続人の立場や財産の受け取り方によっては、適用できないことがあります。
逆に、本来なら取得費加算の特例の適用範囲外でも、使用したほかの制度によって対象に入ることもあるので注意が必要です。
どのようなケースで適用できないのか、またはどのような制度を使用すると適用範囲に入るのかは把握しておくと良いでしょう。
贈与には適用できない
売却したのが贈与によって取得した財産であるケースには、原則として取得費加算の特例を適用できません。
取得費加算の特例を適用できるのは、相続によって取得した財産を売却するケースです。
取得費として加算されるのは相続税であり、贈与税ではありません。
相続以外では、故人の遺言によって相続人以外の方が財産を受け取る遺贈が対象になります。
このケースでも、相続税を納税している必要があるため注意しましょう。
夫婦間の相続では適用できない可能性が高い
相続した財産の売却であっても、夫婦間の相続では取得費加算の特例を適用できない可能性が高いです。
これは、夫婦間の相続では、そもそも相続税が発生しないケースが多いことによります。
夫婦間の相続には「配偶者の税額軽減」と呼ばれる特例が適用され、最低でも1億6,000万円の財産まで相続税が課税されません。
不動産は高額な財産ではあるものの、1億6,000万円以上の価格になることは少なく、夫婦間の相続では相続税を払うケースのほうが珍しいのです。
したがって、基本的に夫婦間の相続では取得費加算の特例を適用できない、する必要がないといえます。
相続時精算課税制度と3年以内加算制度は例外
原則として贈与では取得費加算の特例を適用できないものの、相続時精算課税制度と3年以内加算制度を使用したときは例外として適用されます。
相続時精算課税制度は、生前贈与で発生した贈与税の納付を相続時まで先送りする制度です。
この制度を使用すると、一定額までの贈与税を相続税と合算での支払いにできます。
相続税に合算された贈与税分の金額も取得費加算の特例の対象になるため、贈与であっても特例を適用できるのです。
3年以内加算制度は、贈与を受けたものの贈与者が3年以内に亡くなったときは贈与を相続に含める制度になります。
この制度では、そもそも贈与自体が相続とみなされるため、支払った税金も相続税として扱われるのです。
相続が開始してから受け取った財産を含め、総額が基礎控除額を上回れば取得費加算の特例を適用できます。
相続税の取得費加算の特例と併用できる税制
取得費加算の特例は、不動産を売却するときのいくつかの制度と併用することが可能です。
特例同士を併用すれば、さらに譲渡所得税を軽減できるほか、非課税にできることもあります。
居住用財産売却時の3,000万円特別控除と併用できる
取得費加算の特例は、居住用財産を売却したときの3,000万円特別控除と併用できます。
これは、マイホームとして使用していた住宅を売却したときに3,000万円の利益まで非課税にできる制度です。
売却利益が3,000万円以下であれば、そのまま譲渡所得税を非課税にできます。
3,000万円特別控除を適用しても利益が発生するときは、相続した住宅であり自分も住んでいた住宅であるケースに限り取得費加算の特例を併用可能です。
ただし、この特例を適用するためだけに入居した物件では、3,000万円特別控除を適用できません。
また、ほかの家屋を建築するときに仮住まいとして使用するなど、一時的な入居や別荘としての使用でも適用できないため注意しましょう。
3,000万円分の利益を非課税にできる制度には、ほかにも相続空き家の3,000万円特別控除の特例がありますが、こちらと取得費加算の特例は併用できません。
取得費加算の特例を無理に使うよりも、相続空き家の3,000万円特別控除の特例を適用したほうがお得になるケースが多いです。
どちらを適用するか迷ったら、それぞれの控除額を試算してみると良いでしょう。
小規模宅地等の特例と併用できる
取得費加算の特例は、相続した不動産を売却するときの小規模宅地等の特例と併用できます。
小規模宅地等の特例は、相続開始まで故人が自宅として使用していた住宅や、事業で使用していた不動産を売却すると適用できる特例です。
一定の面積までにかかる相続税を軽減し、大幅に負担を軽減できます。
ただし、適用対象となる方や不動産には、いくつもの要件があり複雑です。
また、同居親族が自宅を相続したケース、賃貸不動産を相続したケースでは、相続開始から10か月間売却できないなどのルールもあります。
さらに、取得費加算の特例の計算は、小規模宅地等の特例を適用したあとの相続税額を用いる点に注意が必要です。
したがって、取得費加算の特例で取得費に加えられる相続税額が減ります。
小規模宅地等の特例を適用する前よりも、取得費加算の特例の恩恵は小さくなるでしょう。
まとめ
取得費加算の特例は、相続した財産を売却するときに相続税の一部を取得費として計上できる制度です。
贈与で発生した贈与税や、相続税が発生しない相続などでは適用できません。
取得費加算の特例はいくつかの特例などと併用でき、より納付する税金の金額を抑えられる可能性があります。